からかいの極意に迫る

昔の職漁師は『からかい』と呼んでいたようですが、

それを知らなかった私は『もがき』と呼んでおりました。

 

どちらも飛んでいる虫が水面に落ち、飛び上がろうとしてもがいている動きや、

羽虫やトンボが水の中に卵を産み落とそうとしている動作を表しています。

 

この虫たちを捕食しようとして岩魚はライズを繰り返しているのです。

 

毛鉤を生きている虫のように動かし岩魚を誘い釣るのですが、

私がこの釣り方を思いついたのはあることがきっかけです。

 

ある渓で一日中釣りをして、戻る途中コンクリートの堰堤の上で休憩していました。

何気なくバックウォーターの深みを覗いていた時のことです。

 

透明な水は川底の石まで見えていましたが、岩魚の姿は確認できません。

 

そこに一匹の蛾が飛んできて水面に落ち、飛び上がろうともがいていました。

すると三方から物凄いスピードで岩魚が飛びだしてきて、

最初の岩魚がもがく蛾を一瞬でくわえ水中に消えました。

 

三匹とも尺クラスの岩魚でしたが、その中の一番大きな奴がエモノを確保したのです。

 

その後は何事もなかったように静まりかえり、

私は我に返っても何か釈然としないまま凄いものを見たという思いだけが残りました。

 

まず一つ目は、あれほど透明度が高く川底まで見えていたのに、

私には大型岩魚三匹の内の一匹の姿も発見できていなかったこと。

 

二つ目は、岩魚には堰堤の上の私が見えていたはずなのに、

三匹の岩魚がもがく蛾を捕食すべく競って飛びだしてきたこと。

 

この時は何となく腑に落ちないまま時が過ぎましたが、

それ以後気になって岩魚の行動を観察し続けました。

 

そこから見えてきたもの、それは岩魚も生きるための経験値を上げたものだけが生き残り、

大型になるのということです。

 

例えば『私が見えていたはずなのに』三匹がもがく蛾に飛び出してきたこと。

 

これは私がいた場所は釣りに来た人間が必ず通る道で、

岩魚に危害を加えない場所であることを経験値で学習していたのではないかという推測です。

 

又堰堤の上から人間に発見されにくい場所、

それはどこなのかを知っていたということではないかと考えています。

 

そしてここが一番重要なことなのですが、

『岩魚は常に水面を見ているということ』このことを確信したことです。

 

三匹の岩魚がそれぞれ別の場所から一斉にもがく蛾に向かって飛びだしてきたのは、

どの岩魚も同じように水面を見ていた為でそのことの証明となると考えます。

 

つまり岩魚釣りは水面をどのように攻略するかが重要で、

『水面を流れる生きた虫』つまり『ドライ毛鉤』や『もがき』を体得すること。

 

これこそが『大型の岩魚や釣果』につながる『極意』であるとの確信に至りました。

 

  

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